ページ ページ25
**
『あ、お疲れ。』
「お疲れ様。」
きれいな着物を着た品の良いお姉さんに連れられて入った部屋にはすでに、目黒くんが来ていた。
お姉さんに御礼とビールの注文を告げれば、きれいなお辞儀を置いて部屋を出ていく。
彼の前に腰を下ろし、ふぅと息を吐いた。
「…緊張した」
『ふはっ！』
「笑い事じゃない。お店の扉開けるの２回ぐらい躊躇した…」
素直にそう言えば、なんとも絶妙なタイミングでさっき注文したビールを持ったお姉さんが入ってくる。
無意識に背筋が伸びた私を見て、目の前の男は肩を揺らし笑っている。
お姉さんに視線を向けるついでに彼を睨みつけ、お姉さんには笑顔を向けビールを受け取る。
扉が閉まる音を聞いて、ようやく肩に入った力を抜く。
「いつまで笑ってるのよ」
『ごめん、ごめん。あまりに面白くて』
「…乾杯する前に飲んでやる」
『ちょっ、ごめんごめん！』
慌てて差し出されたジョッキに同じそれをぶつければ、小気味いい音を鳴らした。
緊張で乾いた喉を潤すビールは、何よりも美味しく感じた。
ーーー
ー
『ー、で結局ラウール全然帰らなくて寝不足のまま撮影行った。』
「ふふ、ラウール君はよっぽど君が好きなんだね」
お酒も進み、個室内は穏やかな雰囲気に包まれる。
目黒くんの話に笑って相槌を打つと、じっと見つめられる。
(なんかまずいこと言った？)
心当たりのない視線に「何？」と返すと、ゆっくりと彼が口を開く。
『…呼び方。いつになったら変わんの？』
無意識だった。
長い事アイドルの彼女をやってきたからなのか外では相手の名前を呼ばないよう癖付いてる。
『蓮って呼んでほしいんだけど。』
「うーん…」
困った様に笑ってごまかそうとしても、真っ直ぐな彼の視線に逃げられない事を悟る。
「…善処します。」
今できる精一杯の返事を返せば、彼は一瞬眉間にシワを寄せたものの、すぐしょうがないなとでも言わんばかりの表情へと変わる。
『なるべく早めに、お願いします』
「頑張ります。」
なんだか気恥ずかしくて、それを誤魔化すようにジョッキを豪快に傾けた。
ーーー
ー
一足先に店先に出た私は冷たい風に吹かれ、火照った顔を冷ましていた。
お店を出る前に支払いで一悶着合ったが、
「割り勘にしてくれないならもう来ない。」
私の粘りがちだった。
席で自分の分を目黒くんに渡し、お支払いを任せて私は先に店を出た。
**
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1427人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
のん(プロフ) - とても面白い小説ではまってしまいました。主人公の気持ちがとても切なく、共感できる素敵な主人公だなと思います。どんな結果でも幸せになってほしい！これからも応援してます。 (3月15日 16時) (
レス) id: d13a90d6ad (このIDを非表示/違反報告)
あーちゃん(プロフ) - とても面白かったです。思いあってるのにすれ違ってる2人も、彼女のことを考えてくれる目黒くんも、立場を考えると切なくなります。深澤担ですが主人公がしっかりとしてるのに、段階を踏んで目黒くんの優しさに触れていく過程が素敵でした。続き楽しみにしてます。 (3月15日 4時) (レス) @page38 id: 3a34fd6c9d (このIDを非表示/違反報告)
あたりん(プロフ) - 更新楽しみにしてます！続きがとても楽しみです！ (3月13日 22時) (レス) @page38 id: 8619ea3777 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：お豆腐屋さん | 作成日時：2024年3月3日 21時
