拭えない罪の意識と自己否定、それに伴う希死念慮について。 * ページ47
「時々な、何もできない自分に嫌気がさすんだ」
「バカみたいに日々を浪費して、ただ生きながらえているだけの自分に」
「何もせず生きて行く事を、罪みたいに扱うんですね」
「他人はそうじゃないさ。何もできなくたって何の罪もない。でも私は違う。矛盾しているだろうけど、そう思う」
「未だに自分自身の事を許せないでいるんだ」
フ……と目を伏せて、寂しそうに笑う貴女を横目で見る。
その表情は笑顔である筈なのに、笑顔じゃないみたいで、あまりに痛々しくて、言葉が詰まった。
「悪いな、君にこんな話をしてしまって」
不味い。
会話を切り上げようとしている。
ここで帰してはならない。
ここで帰してしまっては、きっと一生、貴女の重苦しい身の上話を聞けなくなってしまう!
「なら私が貴女の事を許します」
不味った!
完全にかける言葉を間違えた。
私は何様のつもりだ。
呆れられる。最悪軽蔑されて、折角開いてくれた心を閉ざされてしまう……。
「あははッ、そうか、それは有難い」
「あ、え。良かったです……?」
「かける言葉を間違えたと思っただろう」
ぎくり。と効果音が鳴り出しそうな程に体が強ばる。
とりあえず私の言葉は貴女を傷付けた訳ではなさそうで、笑われた事に安堵したのも束の間、図星を指された事にまた冷や汗が出る。
「そんな顔をしなくたって、怒ったりはしないよ」
「あ、は、はい」
怒られるのは怖くない。
貴女に嫌われるのが何よりも怖いだけだ。
「ありがとう。私の事を許してくれたのは、君が初めてだ」
貴女は子供っぽく笑って私の目を見る。
その時私は、初めて貴女の前で息をついた。
ずっと、心配だったのだ。
貴女は強くて優しいけれど、それはまるで傷付いた事のある人こそが持てるような強さと優しさだったから。
貴女が偶に見せる寂しそうな笑顔が頭から離れなくて、いつか消えてしまうんじゃないかと脳裏に過る事が度々あったから。
だからその笑顔を見て心底安心できたのだ。
貴女はきっと大丈夫だろう、と。
その一週間後、貴女は会社の屋上から飛び降りた。
かける言葉を間違えていた。許すべきではなかった。
私は貴女が自死する選択までもを肯定してしまっていた。
私が貴女の背中を押して、屋上から突き落としてしまったのだ。
私がいけなかった。私が悪い。
自分自身が許せない。
もう全てが嫌になる。
ああ、
「死んでしまいたい!」
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miko(プロフ) - 通りすがりの人Aさん» 嬉しいお言葉をありがとうございます…!タイプと言って頂けて光栄です。考察までしてくださって嬉しい限りです!お心遣いもありがとうございます。次回作も楽しんで頂けると幸いです。 (5月9日 18時) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - 「大人になるということ」、個人的な考察として富士樹海のことなのかなぁと勝手に考察していました。樹海のまた別の特長も相まって人生に迷子になっちゃったんだろうなぁと、考察のしがいがありました。次回作も読ませていただきます。 (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
通りすがりの人A - コメント失礼します。話の展開や言葉遣い、細部に至るまでのこだわり、本当にタイプの文に久しぶりに出会えて大満足です。素敵な作品ありがとうございます。→(字数上次になりますが次の文は考察含みますので作品様の方針にそぐわない場合消していただいて構いません) (5月7日 21時) (レス) @page15 id: 6d2a917923 (このIDを非表示/違反報告)
miko(プロフ) - 富司純河さん» 励みになるお言葉をありがとうございます…! (4月30日 2時) (レス) id: 9457fcfd26 (このIDを非表示/違反報告)
富司純河(プロフ) - 続編お待ちしております。 (4月29日 10時) (レス) @page49 id: ecd0918c08 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:miko | 作成日時:2023年5月10日 3時