ねぇ、ちゃんと聞いて【青】

#32 ページ32

屋上の扉を開くと、前回のようにベンチから飛び出す脚が見えた。




ゆっくり近づいてみると、そこにはやっぱり気持ち良さそうに眠る渡辺くんの姿が。





今朝、あんな勇敢な姿を見せられて一段と好きにならない訳がない。





おまけに車内でもあんな風に守ってくれて…




再び繋いだ手の温もりを思い出し、胸がキュッとなった。





「渡辺くん…」



小さく呼び掛けてみるけど、渡辺くんはスヤスヤと寝続けている。





そのまま静かに隣のベンチに座り、彼を見つめる。




いっそこのまま眠っている所を見続けていようかな…




そう思った矢先に、渡辺くんがパッと起き上がる。





渡「やべ…っ！あ、うわぁっ！だからいるなら声掛けてってば」





うたた寝した事にハッとした後で、隣のベンチに座っていた私の存在に気付き、驚きすぎている渡辺くん。





「…かけたもん」





渡「何回？」





「1回」





渡「1回じゃ起きないじゃん」





いや、知らないし。




思わずそうツッコミたくなったけど、

とにもかくにも、まずはお礼を言わなくちゃ。





「渡辺くん、…今朝はありがとう」





渡「…つかさ、何であの時間にいたの？寝坊？」





「…うん」





渡「ふはっ！なんで？笑」





「んー…と、目覚ましセットし忘れちゃって」





渡「あ〜、ドンマイだなそれは、笑」





ふははって、目を細めて笑ってる。




もう…

人の気も知らないで。





「渡辺くんはいつもあの時間なんでしょ？」





渡「うん」





「そっか。朝の満員電車ってヤバいんだね」





渡「俺はもう慣れたけどね。（人1）さん乗る前から顔死んでたもんね、笑」





「え？！見てたの？」





渡「うん。俺いつもドア付近にいるんだけど、ホームにこの世の終わりみたいな顔して立ってる（人1）さん見つけて」





「この世の終わりて…」





渡「マジマジ。んで、乗り込んだは良いけど俺の存在にも全く気付かないでどんどん真ん中まで流されて」





…渡辺くんがいた扉から入ったなんて、全く知らなかった。





渡「そしたら（人1）さんのすぐ後ろをあの男がピッタリマークしてんの」





「え…電車乗った時から？」





渡「そう。で、怪しいからずっと見てたらやっぱりヤベェ奴だった」






…そうだったんだ…。



本当に私は何も気付いていなくて恥ずかしい。





渡辺くんの観察眼に驚いたと共に、そんな風に気にかけてくれていた事がやっぱり嬉しかった。

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