満開桜と咲かない恋 (ページ11)

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金曜日ページ11

「っあー…あったけぇ、ねむってぇ」
『一応お仕事中だよ、蓮くん』
「んー……」

今日は最後の委員会、30分が経過した頃。隣で既に首がカクンカクン揺れてる。昼休みもあんなに駆け回ってたんだから、仕方ないけど。

ファイルの整理をして、来週の人たちへの引き継ぎを書き込んでいると、ものの数分で隣からは寝息が聞こえてきた。
握っていたはずのシャーペンはカタンと音を立てて離れる。

『…すご、綺麗な寝顔だなあ』

うっすら開いた唇に閉じても強調される涙袋。風に髪が揺れて、とても気持ちよさそう。春日和、そんな言葉が似合う日だ。もはやジャケットでさえも暑い。耐えきれず、脱いで椅子の背もたれにかけた。

(風邪、ひいちゃうかもな)

彼はシャツ1枚に腕まくりをしている。風通しがいいし、暖かいとはいえ私たちが座るカウンターは日陰だ。起こさないようにそっとジャケットをかけると、微動だにせず眠っている。

『…今のうちに、いっぱい見とこ』

頬杖をついて、彼の顔をじっと見つめた。

(人気者だもんな、蓮くん)

放課後よく告白されてるという話をラウールくんから聞いたのは、ついさっきのこと。なんなら、目撃したんだけど。

〝見て、Aちゃん。また告白されてる〟
〝告白？…わ、蓮くんだ〟
〝ほらあそこ。めめ、よく告白されるのに彼女作んないの。なんでだろ〟

私たちの教室からは体育館裏が見える位置にある。
昼休みが終わる5分前、授業の準備をしていると後ろでラウールくんが私の肩を叩いて見せてきたは、彼の告白される現場だった。

言葉にはしなくても、心は正直で、その場面を見た時チクッと胸が傷んだ。
告白できる勇気がある女の子も羨ましい。遠目からでもわかる、深々と提げた頭。たとえ応えられないとしても、真剣に向き合う蓮くんはやっぱり素敵で、切なくなった。

(そういう所が、モテるんだろうな)

飾らないし、人に媚びない。誰にでも分け隔てなく優しくできるし、常に落ち着いてて、大人で。そんな人が同じ学校にいたら、自然と惹かれるのも当たり前。

案の定、私も好きなんだもん。

「……ん」

こんな些細な寝言さえも、可愛いと思う。
でも蓮くんにとって私はなんなんだろう。知り合い？同じ委員会ってだけなのかな？友達にすらなれてないのかな。

その横顔を見つめながら、思わず泣きそうになる。

『…好きだなあ』

きっと、忘れてるんだろうな。去年の3月に、私の髪に付いた桜を取ってれたことも。