満開桜と咲かない恋 (ページ13)

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5月ページ13

春は終わり、夏の匂いがするこの頃。
制服は段々と移行期間に入り、長袖の人もいれば既に半袖に切りかえた子達もちらほら。
…蓮くん、あれから顔、見てないな。

「じゃ、今日は体育祭の選手決めな」

黒板に種目を書き出す先生。思わずため息が出る。

「あれ？Aちゃん乗り気じゃない？」

後ろの席から声をかけてきたラウールくんに、うんと答える。…体育はちょっと、苦手分野。

去年も障害物リレーに抜擢されて、走ってる最中にバカにしたような渡辺先輩の笑い声が聞こえてきたのはいい思い出。
あまりにも走り方が間抜けだったと、終わったあとにわざわざ笑いに来る始末。

『ラウールくんは？』
「運動は好きだけど……得意なのはダンスなのよ俺」
『手足長いし、足速そうだけどなあ』
「え〜？そうかな」

そう思っていたのは私だけではなかったようで、ラウールはリレーな！とクラスの男子にまくし立てられている。

「＿＿＿じゃ、今年は最後だから優勝目指して頑張れよ〜」

全員分の名前が書き出された黒板。

【借り物競争】

私の最後の体育祭はコレ。
得意じゃないのに何故か走るものばかりに出されるのは何の因果か分からないけど。

「A、頑張ろうね」
『……琴葉ちゃん』
「まあまあ、最初に借り物さえゲット出来れば大丈夫だからさ」
「大丈夫だよ、俺めっちゃ応援する」

一緒になった琴葉ちゃんはどこか楽しそう。ラウールくんも何だかワクワクしてるようで。

(…蓮くんは、何になったんだろう)

サッカーやってるくらいなら足速そうだし、選抜リレーとか出るのかな。
クラス順ではなくランダムで組み分けされるので、蓮くんとは敵同士だ。ハチマキ姿、見てもいないのに想像するだけでニヤけてしまう。

「…A、たまに変な顔するよね」
『へっ！？』
「あーたしかに。俺も結構見る、ニヤニヤしてる顔」

そんな妄想を膨らましていると、そんな私の顔を覗き込んでいる2人の顔が目の前にあって思わず身を引く。
…そんな顔に出てるんだ。

「あと1ヶ月あるし。出し物もあるから、頑張らなきゃね」
「俺、ダンスなら教えてあげれるから！」
『…ふふ、楽しみだね』

恒例の集団ダンスは毎年盛り上がる。うちのクラスはラウールくんがいるし安泰だと、先生もさっき言っていた。

羽織っていたカーディガンを脱いで袖をまくった。
この前までピンク色に染まっていた空は青く澄んで、夏の花たちが咲き始めていた。

そんな、高校最後の夏の始まり。