かんちがい ページ20
『……う』
薬品の匂い。 背中にはふかふかの何かがあたってて、
ここがベッドの上だと気付くのに時間はかからなかった。
『……いてて』
「あら？目、覚めたのね。よかった」
軽い脳震盪起こしてたんだよ、と
カーテンを開けながら保健室の先生が水を渡してくれた。
1口飲むと、少し冷たい感覚が喉を通った。
「災難だったわね」
『あの、あんまり覚えてなくて』
「騎馬戦。落ちちゃったのよ、あなた」
赤ブロックの子がワザとぶつかったみたいね、と
そこまで言われてじわじわと思い出した記憶。
ルール違反もあって、
騎馬戦で勝ったのは私たち白ブロックだったみたい。
お昼休憩が始まるまでは、先生の勧めもあって
ここでじっとしていることにした。
「私はグラウンドに戻らなきゃいけないから」
何かあったら職員室にいる先生に内線かけてね、と
パタパタと駆け出していった。
ズキズキと痛む肘や膝を見るとガーゼが巻かれていて
落ちた衝撃で擦りむいたようだった。
『…先生が運んでくれたのかな』
最後に蓮くんの声、聞こえた気もするけど…。
私の思い違いかもしれない。いや多分そう。
そんな時、ガラガラとあいたドア。
「A、大丈夫？」
『…へ、阿部ちゃんと、渡辺先輩？』
「せっかく来たのに保健室行きって、お前さぁ」
「翔太。Aは怪我してるんだから」
よしよし、と頭を撫でた阿部ちゃん。
……なんだか、懐かしくて安心して。
『…う''〜〜〜っ』
「はぁ！？なんで泣いてんの！？」
「仕方ないでしょ。怖かったんだよね」
ベッドの脇に座って背中をさする阿部ちゃんに
勘弁してよ…と困った顔をする渡辺先輩。
不器用な手つきで、次は先輩がぐしゃぐしゃと頭を撫でた。
『ここまで私の事運んだのって2人？』
「んー？違うよ？俺たちは運ばれたって聞いて、ここに来たから」
『じゃあ、誰なんだろ』
「女子の悲鳴上がってたけど。め…めくん？とかいって」
そいつじゃね？とぶっきらぼうに言ってのける先輩。
…そうなると、やっぱり私が最後に聞いたのって。
『私、戻んないと』
「もう昼休憩入るとこだよ、それまで待ったら？」
そういった時、ちょうど鳴ったチャイムの音。
校庭の方が騒がしくなって生徒たちの足音が聞こえ始めた。
そんな中一際バタバタと近づいてきた足音。
「っA！」
そこに居たのは、今1番、会いたかった人。
「……は、誰？」
そんな焦った顔は一瞬で冷たい表情になって
視線の先にいたのは、阿部ちゃんと渡辺先輩。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月13日 9時
