しんぱい ページ21
少し怒った顔で、ずんずんと近づいたきた蓮くん。
「…あんたらが泣かせたの？」
私の頭に手を置いたままだった翔太くんの腕を掴んで、
キッと睨んだ。
「はあ？なんで俺らが、」
「もしかして…君、''めめくん？''」
「なんで俺の名前…」
「やっぱそうだ！俺ラウールの先輩で…えっと阿部って言うんだけど」
目の前で喧嘩が始まりそうって言うのに
ニコニコと会話を続けた阿部ちゃん。
ハッとして目元の涙を拭うと
擦んなよ、と空いた手で渡辺先輩に止められた。
「とりあえず誤解ね、安心して泣いちゃっただけだから」
『ちょっと、阿部ちゃん』
「A、知り合いなの？」
『えっと、去年までダンス部だった阿部ちゃんと、渡辺先輩』
だから、ラウールの先輩？と掴んでいた手を離した。
「ったく、痛えよ」
「すません、つい」
「まぁいいけどさ」
「あは、部活の度にラウールってば自慢してきてたんだよ」
「そうなんですか？…アイツ」
「本物に会えてよかった。ね？A」
あざとく首を傾げながら私に聞いてくるものだから
意地悪だなあと思いつつ、ゆっくり頷いた。
「てか怪我、俺心配で見に来たんだよ」
ベッド横の椅子に荒々しく腰掛けて、じっと私の目を見つめた。
あまりに真っ直ぐで、すぐに目をそらす。
『大丈夫だよ、ほら、元気だもん』
「ちょ、傷開いたらどうすんの」
分かりやすく肘を曲げて見せると、慌てて止められる。
「……マジで焦った、落ちた時」
『ごめんね、うろ覚えなんだけど』
「運んでても、目開かないんだもん」
『やっぱり蓮くんだったの？運んでくれたの』
「ん。気付いたら体動いてて」
ごめん、と何故か謝った蓮くん。
その様子を呆れたように見る渡辺先輩と、相変わらずニコニコしたままの阿部ちゃん。
「じゃあ、俺たちは先生たちに挨拶するから」
「は？」
「行くよ」
ぽかんとした渡辺先輩を引き摺って出ていく。
静かになった部屋に、二人。
『…ごはんは？休憩中だから戻って？私は大丈夫だから』
「やだ」
『でも』
「ここで一緒に食べる。だめ？」
自然と繋がれた手。心配そうにこちらをみる蓮くんのお願いを
断ることなんか出来なくて。
『うん、わかった』
「よっしゃ。ラウールにAの弁当貰ってくる」
くしゃっと笑って、走り出した蓮くんの背中を見つめた。
『…かっこいいな』
期待しちゃう。でも蓮くんは誰にでも優しい人だから。
舞い上がっちゃダメ。
熱くなった自分の頬を叩いて、貰った水を飲み干した。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月13日 9時
