満開桜と咲かない恋 (ページ23)

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匂いページ23

好奇心で、そのジャージを口元に当てた。
石鹸のいい香りがして、蓮くんのことを思い出す。

…図書室で隣に座った時の香りだ。
てっきり香水でもふってるのかと思ってたけど
きっと、柔軟剤と…彼の匂い。

(…やばい、変態みたいかも)

急に恥ずかしくなってばっと顔を上げた。
…最後の体育祭、まさか保健室で終わるのかと思うと
あんなにダンス練習したのに、とか
借り物競争ちょっと楽しみだったな、とか。

でもそれ以上に嬉しいのは
本気で心配してくれた蓮くんがいたって事と、
ここで、2人だけでお弁当を食べれた事。
あ、阿部ちゃん達に会えたのも、嬉しいけど。

『……ふふ』

今までじゃ考えられないことばかりだもん。
こんなに近くにいるなんて、信じられない。

でもそう思うと同時に、考えた。

私は、蓮くんと友達以上になれるのかな。

もし、ラウールくんが同じ目に合ってたら？
きっと蓮くんは、私にしたみたいにするだろうな。
……じゃあそれが、別の女の子だったら？

さっきまで幸せだったくせに
そんなことを考え出すと心はモヤモヤ曇っていく。

これだから片思いって忙しい。
勝手に考えて、不安になって、自信をなくして。
あんなにかっこいい人気者が相手なら尚更。
……私は可愛くないし、取り柄もないし、地味だし。

でもそんなこと言ったって
蓮くんは優しいから、簡単に肯定してくれちゃうんだろう。

きゅ、とジャージを握る。
苦しい、嬉しい、楽しい、つらい。

蓮くんのことを考えるだけで、知らない気持ちが沢山出てきて。

『……すき』

声に出しても、届くことは無い。
怪我よりも痛いのは、きっとこの恋心。

いっその事告白しちゃう？
……でも、この関係が壊れちゃうのは、嫌だ。

知れば知るほど、話せば話すほど
その先に進展させるのは怖くなるばかりで。

(……蓮くんも同じ気持ちならいいのに)

そんなワガママな気持ちになってみたり。

……やめやめ、考えてもキリないもん。

ベッドに寝転んで、布団を頭まで被った。
目を閉じると、段々頭がぼーっとしてきて
気付けばもう一度、深い眠りに落ちていた。

「……ん、Aちゃん」
『ん、』
「起きた？よかったあ」
『ラウール、くん？』
「うん、体育祭終わったよ、迎えに来た！」

ゆっくり起きると、はい、カバン！と布団の上に乗せられた。
そしてドーン！と自慢げに見せてきたのは第1位と書かれた表彰状。

「Aちゃんの敵討ち！」

嬉しそうなラウールくんに釣られて、笑った。