下校 ページ24
「ほんっっとに許せない」
『琴葉ちゃん、もう大丈夫だって」
「良くない。嫉妬して怪我させるなんて最低だから」
「あの後詰めてたからね、琴葉ちゃんってば」
『詰め…！？』
「あは、俺が止めたから安心してね」
帰り道、腕を組みながらご立腹の琴葉ちゃんと
その様子を思い出したのか、ケラケラ笑うラウールくん。
「でも大怪我にならなくて良かったよ」
『2人とも、ありがとう』
だけどひとつ、心残り。
返せないままだった、蓮くんのジャージ。
(…どうしよう)
カバンの中に畳んでしまったソレに
どうしてもまだ、ドキドキしてしまって。
「…どした？まだ具合悪い！？」
そんな私を見て、心配そうに聞いてくる琴葉ちゃんに
大丈夫だよ、と笑って答えた。
ちょっとだけ、返したくないなって思ったり。
持ってたらまた会える口実…作れるかもしれない。
気付けば駅に着いていて
私と逆方向の2人とホームでバイバイした。
『…あつ、』
ブラウスの首元を、パタパタと動かす。
改札を通ろうと足を動かした時
勢いよく掴まれた腕に足がよろけて、後ろに倒れこんだ。
『わっ』
「っと、あぶね」
そんな私の肩を優しく抱きとめてくれたのは
少し息を荒らげた蓮くん、で。
『…なんで』
「急いで、追っかけてきて」
息も絶え絶えに話すからよっぽど急いだんだろう。
でも…どうして？あ、もしかして。
『ジャージ返してなかったから!?それで走ってきたの!?」
「…ちがう」
ガサガサとカバンを漁る手を掴まれて、視線が合わさった。
後ろから差し込む夕陽が蓮くんの姿に重なってあまりにも綺麗で。
思わず、あの桜が降る日を思い出した。
「一緒に帰りたいって言うの、忘れてた」
その言葉は、また期待するのには充分で。
離してくれない腕が、熱い。
『それで、走ってきたの？』
「うん、でも駅に着いちゃった」
蓮くんも反対の路線だったな、そういえば。
じゃあもう一緒にいれないじゃんなんて
最初は名前さえ知れただけで嬉しかったのに
欲張りになっていく自分が、嫌だ。
「だから家まで」
『…え？』
「Aん家まで送らせて」
『いっ…いいよ！大丈夫だよ』
バカ、なんで断んの…って頭の中で盛大に突っ込む。
そんな私の顔を、わざわざ屈んで覗き込んだ。
「俺が心配で気が気じゃないから」
この時間は人も多いでしょ、と
迷うことなく腕を引いて改札を通った。
驚いた私の顔を見て、ちょっと悪戯げに笑う。
今日はあまりにも、蓮くんの供給が激しい。
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作者名：蒼 | 作成日時：2024年3月13日 9時
