満開桜と咲かない恋 (ページ5)

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視線ページ5

「これ、俺ん家に昨日忘れてた」
「わ〜！ありがとう」

女子の視線が、そちらに集中するのもおかしくない。
入口で話し込む2人は、その見た目も相まってなんとも華やかだ。ラウールくんはダンス部の噂で人気者だって耳にしてたけど…もしかして''めめくん''も、なのかな。
キリッとした眉に、少しタレ目でぷっくりした涙袋。制服は少し着崩しているが、決してだらしない訳では無くて。
聞こえてくる声は、やっぱり二年前私が聞いた声と変わらない。低くて甘くて、優しい声。…高校生とは思えないその色気は、一体どこからくるんだろう。

(めめくん、かぁ)

ラウールくんは何度も彼のことをそう呼ぶ。そんな様子を席からぼんやり眺めていると、バチッと合った視線。

(あ、)

その一瞬、逸らそうと思ったけど逸らせなかったのは、彼が私を見てフッと優しく笑ったから。まるで時間が止まるみたいで、同時に窓から吹いた春風。我に返って視線を逸らすと、どうやら会話は終わったようでパタパタとラウールくんが戻ってきた。

「あの人ね、俺の親友なの」
『そうなんだ』
「もしかして知り合い？目合って笑ってたよね、めめ」
『いや、全然、お話したこともないし』
「…へぇ〜、そっかぁ！」

さっきから、自分の顔に熱が集中しているのが分かる。そんな私を見てなにかに気づいたのか、にやにやするラウールくん。やめてよ、と言うと、何が〜？と白々しく笑った。…案外いたずらっ子みたい。

出席とるから座れー、と気だるげに現れた先生。
窓際の後ろから3番目。今日からここが私の席だ。

窓から校庭の桜を見つめた。4月にはいってもう殆どが散ってしまったけど。

(…クラスも違うし、片想いで今年も終わるのかな)

頬杖をつきながら考える。初恋は叶わないって聞くし、残念ながら私の性格上、男の子にグイグイ行けるタイプでもない。

だからって、友達だって言うラウールくんに頼るのは嫌だ。
自分で好きになった人には、自分でちゃんと気持ちを伝えたい。

「今年で最後だから、悔いがないように過ごせよ」

HRの最後、先生の言葉が突き刺さる。
後悔しない、か。そりゃあしたくはないけど…勇気はない。

『…はぁ』

新学期早々、ため息をつく。きっとすぐ夏が来て、秋が来て、冬が来て。そしたらもう卒業だ。

雲ひとつない空を見上げると、飛行機雲が空に線を描いた。
そんな些細なことさえも伝えたいと思うのは話したこともない彼。

2年も拗らせている片想いは、やっぱり叶う気がしない。